翔龍shoryuの忍たま日記

『忍たま乱太郎』について色々と書いていくブログです。『ドラゴンボール』や藤崎竜さんの『封神演義』のレビューも書いています。

「封神の書」 『封神演義』第1回

「封神の書」
封神演義』第1回

 

週刊少年ジャンプで1996年から連載された藤崎竜さんの『封神演義』第1話。
封神演義』は設定がかなり複雑な作品なのだが、この第1話では「古代中国が舞台」「仙人や妖怪が出てくる」「ラスボスは妲己」「主人公は太公望」「ライバルは申公豹」と言う基本設定を全て無理無く説明している。自分が少年ジャンプを読んでいたのは1990年代辺りだが、その時代の歴代第1話の中でも完成度はかなり高い。

 

1ページ目は字のフォントや絵のタッチ等がいかにも古代中国と言う感じになっているのだが、扉絵を経て本編が始まると字のフォントが変わって藤崎さんの絵によるキャラクターが登場する。
ここで人間界と仙人界と言うこの世界の紹介が行われるのだが、注目すべきは人間界の地平線が「平らではなくて曲線」である事。つまり「地球と言う球体を舞台にしている」と言う物語後半の伏線が既に張られているのだ。

 

主人公の太公望は中国を占める三大民族の一つである羌族の頭領の息子と言う設定になっている。それが村が人狩りに遭い、その復讐の為に仙人になったと言う展開。これによって一仙人に過ぎない太公望が巨悪・妲己と戦う理由付けがされている。
又、頭領の息子でありながら12歳なら自分も働ける年齢だと考える太公望の性格は民を苦しめて自分達は遊び呆ける妲己一味との対比にもなっている。
そして物語後半の話になるが、この封神計画は単なる仙人界の問題で終わらず人間界の覇権争いにも絡んでくるので、太公望は「元始天尊の一番弟子」と言う仙人界での肩書きの他に人間界で指揮を執る為の肩書きも必要になってくる。実際にはそこは邑姜が担ったのだが、殷族と戦うには太公望には「羌族の頭領」と言う肩書きが必要だったと思われる。(後に元始天尊が死んだ羌族の頭領の息子に王奕の魂を入れて太公望を生み出した事が明らかになる。仙人骨を持つ者なら誰でも良いはずなのに、あえて「羌族の頭領の息子」を選んだのはそういう事なのだろう)
第1話のラストで太公望は申公豹の攻撃から羌族の村を守っている。これは太公望が仙人の力を得たから出来た事で、回想シーンにあった「仙人になれば悪い奴をやっつける事が出来る」を成し遂げたと言える。

 

太公望はわずか30年で仙人クラスの能力を身に付けたのだが最近は怠け者になってしまっていた。それは怠けていれば罰として仙人界を追い出されて人間界で修行をさせられると考えての事。太公望としてはそのまま妲己を倒す予定だったのだろうが、「罰として人間界に追い出された状態で妲己と戦う」と言う事はつまり「仙人界の正式な助力を得られない状態で妲己と戦う」と言う事であり「自分一人で妲己と戦う」と言う事である。それがどんなに無謀であるかを太公望が知るのはもう少し後の話。

 

元始天尊太公望に説明した封神計画は「人間界で好き勝手している妖怪や仙人を放ってはおけない。でも、仙人界には戻せないので新たに神界を作ってそこに封印する」で分かりやすくて理にも適っている。強いて問題があるとしたらそれを太公望一人にさせようとしたところ。その辺りについては物語後半でも説明があるのだが、自分は「まずは太公望一人にやらせて、あえて失敗させる」が元始天尊の目的だったのではないかと考えている。
女媧の存在を秘密にしての封神計画は殷周易姓革命を起こす事なのだが、太公望は戦争を起こすより自分一人で妲己一人を倒した方が被害が少ないと考えるので、元始天尊はまずは「太公望一人ではどうにもならない」「妲己一人を倒せば済む話ではない」と言う事を太公望に身をもって思い知らせようとしたのではないだろうか。

 

申公豹はこの時点では妲己の宮殿にいて本人曰く「自分も甘い汁を吸っている身」との事。太公望との対面でも「王宮は生活には絶好の場所」と説明している。実は申公豹の目的は謎を解く事で、その為には妲己の近くにいて色々と探るのが近道だったのだが、その目的を隠す為の言い訳が「妲己と一緒に楽な生活をしている」だったと思われる。
太公望に何か引っかかるものを感じた申公豹は太公望を試して彼をライバルとする。この時点では封神計画の真実を知らなかったのに太公望から何かを感じ取った申公豹の「勘」は凄い。

 

最初の封神」に続く。

 

 

封神演義 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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