翔龍shoryuの忍たま日記

『忍たま乱太郎』について色々と書いていくブログです。『ドラゴンボール』や藤崎竜さんの『封神演義』のレビューも書いています。

『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段』

『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段』
2011年3月12日公開

 

1996年に公開された『映画 忍たま乱太郎』に続く二作目の劇場作品。
原作の37巻と42巻で描かれたタソガレドキとオーマガドキの戦を再構成した内容。今回は初の長編と言う事もあって『忍たま』の中でも規模の大きな話となった。

 

今回は雑渡昆奈門を始めとするタソガレドキの初登場を扱ったエピソードとなっている。アニメでは既に14期と16期で描かれている話なのだが、当時は昆奈門を広瀬正志さんが演じていて、コミカルな部分もいくつかあって現在の昆奈門やタソガレドキのイメージとはやや異なる感じになっていた。(まぁ、この頃は原作の昆奈門もちょっとコミカルなところがあったわけだが)
現在の昆奈門やタソガレドキのイメージは原作の42巻以降の話やアニメの18期以降で昆奈門を演じている森久保祥太郎さんの演技によるところが大きくて、今回の映画ではその原作42巻以降とアニメ18期以降に出来上がった昆奈門とタソガレドキのイメージを使って彼らの初登場エピソードを描き直したと言える。

 

台詞の有無はあるが、タイトルの「忍術学園全員出動」の通りに忍術学園関係者が殆ど全員登場する。アニメ19期開始直前に公開されているので、原作42巻に登場していないがアニメ18期から登場している勘右衛門の出番が新たに作られている。

 

映画と言う事もあって今回の話では皆が細かく色々動いている。
皆が細かく動かされている理由は二つ考えられる。
まずは約80分と言う短い時間にかなりの人数を出さなくてはいけず一人一人を描く事が出来ないので一つの場面で大勢の人物を同時に動かす事にした。これは映画と言う大画面の強みを生かしたと言える。
大勢の人物が同時に動く他に今回の映画では大間賀時曲時と密会した昆奈門が乱太郎達の存在に気付いて手を微かに動かして部下に指示を出すと言った細かい動きも多かった。これも限られた時間で色々な話を描く為と考えられる。もしこの場面をいつものようにしたら「まず昆奈門が曲時を送る」「昆奈門が部下を密かに呼び出す」「それに応じて部下が姿を現す」「昆奈門が部下に乱太郎達を見せて後を尾けるよう指示を出す」となる。これらを「昆奈門が曲時を送りながら指で指示を送り部下が既に行動を開始している」と一つにまとめる事で大幅に時間を短縮している。
これらの効果は時間短縮だけでなく、大勢の忍たまが同時に動く事で規模の大きい戦である事を、タソガレドキが最低限の仕草で的確に指示を出して実行に移す事でプロの集団である事を示せて、今回の話の肝である「本格的な戦」を成り立たせる事にもなっている。
二つ目の理由だが、今回は説明シーンになると絵や音楽や動きがコミカルで派手になる場面が多かった。おそらくこれは子供達が説明シーンで飽きてしまう可能性を考えて、説明している内容が分からなくても忍たま達の動きで楽しめるようにしたと考えられる。

 

ここからは個々の場面で色々と。
乱太郎と伊作が園田村へと急いでいるところを昆奈門が襲撃してくる。
この場面で伊作は乱太郎が投げた石が誤爆するまでは昆奈門相手になんとか戦えていた。昆奈門が伊作を命の恩人だと気付くのはこの後なので、この時の昆奈門は伊作の命を本気で狙っていたはず。そんな昆奈門を相手にしばらくの間でも持ちこたえる事が出来るとは、さすがは小説で「不運が無ければ六年生一の技の切れを持つ男」と解説されるだけの事はある。

 

タソガレドキと戦う事を決めた園田村を援護する為に忍術学園が全員出動する。
今の忍術学園は「委員会」の存在が大きいのだが、保健委員会が救護だったり用具委員会が武器の運搬だったりと委員会の仕事が戦と繋がっている事に気付く。火薬委員会はそのままだし、体育委員会は塹壕を掘るし、生物委員会は毒を扱うし、作法委員会には戦の作法がある。直接の描写は無いが戦に関わる費用の計算は会計委員会の仕事だろうし、図書委員会が持つ膨大な資料は戦の作戦を立てるのに必要だと思われる。(学級委員長委員会は学園長直属の特別機関みたいなところがある)
「委員会」によって『忍たま』は「学園モノ」の要素が強くなったのだが、実は「学園モノ」の要素を通じて「戦国時代」の要素を子供達に分かりやすく伝えていたと言える。

 

タソガレドキの斥候が虎若を狙う。照星さんが間に合ったから良かったものの、もう少し遅かったら虎若の命は無かった。『忍たま』には八方斎を始めとして忍たまを狙う悪い大人が沢山いるが明確に「子供を殺そうとした」場面は少ない。
虎若が助かったのを見て虎若の父が「まったく、心配をかけさせおって……」と通り過ぎていくが、これ、本当はめちゃくちゃ焦っていたし助かったと知ってめちゃくちゃホッとしていたんだろうな。でも、今回は佐武の頭領として園田村に加勢に来ているので取り乱す姿を見せるわけにはいかなかったんだろうな。(だったら、皆がいなくなったところで息子に会いに行けば良いじゃんと思ったら虎若は照星さんにうっとりしていた。これは父ちゃん落ち込むw)

 

昆奈門が保健委員会の所に現れる場面だけれど、
乱太郎&伏木蔵「母ちゃん!」、
伊作「坊や達、早くこっちに!」、
と言う場面に見えちゃってつい笑ってしまった。
この場面だけだと伊作が未亡人で乱太郎と伏木蔵がその子供で、昆奈門がその母子に惹かれてしまったヤクザもんに見えてしまう。

 

保健委員会の上級生が全滅して乱太郎が委員長代理に。しかし、これから本格的な戦が始まる中で乱太郎は重責から眠る事が出来なかった。そこにやって来たのが仙蔵で喜三太を無事に助けたと報告する。仙蔵は喜三太の救出に成功したら必ず知らせると乱太郎達に言っていたので、その約束をちゃんと果たしたと言える。これで乱太郎の決意が固まったのか、翌朝、乱太郎は伊作の布を頭に巻いて「皆の怪我は私が治す!」と保健委員長代理として宣言する。
厳禁シリーズがあるので仙蔵はしんべヱとの話は多いが乱太郎との話は少なく、今回は珍しい絡みとなった。

 

園田村に砲弾が降り注ぐ場面は「当たったら命に関わる」場面だったので『忍たま』でも珍しく「痛さを感じる」場面となっていた。
この場面で印象的だったのは松千代先生が三年生を庇った場面かな。格好良かった!
あと、小平太が砲弾をアタックしようとしたら骨が折れたのにも驚いた。いつもだったら平気そうなんだけれど、さすがにリアリティ重視の今回の話で超人振りを見せるわけにはいかなかったか。

 

乱太郎に手当てをされた男の「村に帰って田んぼやらんと……」と昆奈門の「決して傷付けるな。保健委員が悲しむからな」が印象的。
戦において最も重要な存在である忍者。その忍者に向いていないと言われる保健委員会の存在が戦を終わりに向かわせた。
戦国時代に入って数十年。ひょっとしたら戦の無い時代が来るのかもしれないと希望を感じるやりとりであった。

 

原作では意外と乱太郎の活躍が少ないのだが、今回の映画では大規模な戦を展開しながらも主人公の乱太郎をテーマの根っこに配置する事に成功している。
一本の映画として見ても全体の構成が抜群に上手い作品なので、『忍たま』に興味はあるがちゃんと見た事はまだ無いと言う人はまずこの映画を見る事を勧めたい。