「歴史の道標十四 -時をかける妖怪-」
『封神演義』第185回
同じ「変化」だが楊戩と胡喜媚では根本的に違う部分がある。
楊戩の変化は「見た物や会った人を真似る」ものなので実際にあるものにしか変化が出来ないのに対し、胡喜媚の変化は「頭の中で想像したものに変身する」なので、この世に無いものにすら変化出来る。
楊戩は王魔との戦いで開天珠を分析する場面があったが、おそらくは対象物を自分なりに分析した上で変化をしていると思われる。なので、楊戩は変化する時に自分の頭の中にある分析データを引き出さないと変化が出来ないと思われ、そこでちょっとしたタイムラグが起きる。(実際、牧野の戦いでは一瞬で変化は出来ないとなっている) それに対して胡喜媚は分析した何かに変化するのではなく、自分の頭の中で描いたものに変化しているので、パッと思いつけば一瞬で変化が可能となっていると思われる。
「この世に無いものも含めて何にでも変化出来る」「変化するまでのタイムラグが短い」。この二つを兼ね備えた胡喜媚は天才・楊戦をして「自分以上の使い手」と、妲己をして「スーパー宝貝をしのぐかも」と言わしめる実力を見せる事となる。
太極図すら使えない状況の中で太公望が採った策は「マスコットキャラを人質に取り、女の子から羽衣を強奪すると、そのまま鈍器で女の子の頭部を殴打する」であった。
仮にも少年ジャンプの主人公なのに……。だが、これぞ太公望!
胡喜媚の正体は「雉鶏精」と言う未来過去へと時間を自由に飛翔する鳥の妖怪で、その羽に触れた者は時間的な退行を起こすとの事。
え? 何? その、ひょっとしたら女媧すら倒せるんじゃないのか?と言うチート設定は……。
作品の主人公は色々と試練が与えられるものなのだが、『封神演義』の主人公である太公望にもかなりの試練が降りかかっている。
父と母と妹と幸せに暮らしていたのだが人狩りでそれを失い、仙人になって人間界を救おうとしたら失敗して蠆盆事件を引き起こし、多くの仲間達を得るも仙界大戦等でそれらを失っていき、犠牲を出さないようにしようとしながらも結局は犠牲を出さなくてはいけなくなり、理想であった仙道のいない人間界を作った結果、人間界に自分の居場所が無くなり、遂には時間退行によってこれまで生きてきた約80年の時間を肉体的に「無かった事」にされて死亡した。さらにこの後は王天君との融合により「普賢真人や黄飛虎や天化達を殺した存在を自分の中に取り入れて生き続ける」事となる。
さらにとどめを刺してしまえば、太公望(呂望)は自分の妹が人狩りによって殺されたと思い、それが「仙道のいない人間界を作る」と言う理想を生む事になるのだが、仮に女媧が伏羲の妹だとした場合、その理想実現の為に最後にしなければいけない事が「妹殺し」だったりする。
そりゃ太公望も「ここまで不幸か、わしの人生…」と嘆くし、女媧の「一緒に消えてくれ」と言う頼みに「ま・いっか…」と言っちゃうだろうなぁ……。
「鏡1」に続く。