「ヤムチャ対シェン」
『DRAGON BALL』其之百七十四
現在はヤムチャとクリリンの評価に大きな差があるがそのきっかけになったと言える試合。
ピッコロ大魔王編までのヤムチャとクリリンの扱いにそれほど差は感じられなかった。過去二回の天下一武道会ではヤムチャはどちらも一回戦敗退でクリリンは一回戦を突破しているがヤムチャの対戦相手はどちらも優勝した選手だったのでヤムチャは対戦相手が違っていたら一回戦を突破していた可能性は十分にあったと言う扱いであった。
今回の天下一武道会ではクリリンもヤムチャも一回戦敗退で相手はピッコロに神様とどちらも強豪であったが、クリリンがピッコロを驚かせる底力を見せたのに対してヤムチャは繰気弾で一度驚かせただけで神様に軽く倒されてしまった。クリリンもヤムチャもシェンの実力を見抜けないレベルだったのだが試合内容ではシリアスで善戦したクリリンとコミカルで完敗だったヤムチャで印象に雲泥の違いがあった。
次のサイヤ人編でもヤムチャはサイバイマンの実力を見抜けず自爆で殺されてしまい、一方のクリリンはサイヤ人も驚かせる底力を見せ、さらに次のナメック星編では死んでしまったヤムチャには活躍の機会は訪れず、逆に生き残ったクリリンはフリーザ相手にも一矢を報いると二人の差は決定的なものとなってしまった。
もし今回の天下一武道会でヤムチャがピッコロと戦って底力を見せ、逆にクリリンがシェンと戦って相手を侮って負けてしまっていたら、二人のその後はどうなっていたのだろうか……?
神妙な顔をして黙っている悟空を見てクリリンは「ちょっと暗くなっちまったんじゃねえか?」と尋ねる。
少年時代の悟空は思った事はすぐに口に出していたので黙っていたり心の声で喋る事は少なかったが大人になると黙って考えて心の声で喋る事が多くなった。暗くなったと言うより色々考えるようになった、迂闊な事を言って事態や戦況が悪くならないようにしようとするようになったと言う感じかな。つまり、大人になったと言える。だが、口に出さないで自分一人で考えて心の声で結論を語ると言う大人になった悟空の変化はセルゲームの時の悟飯への対処で大失敗をしてしまう事になる。
第23回天下一武道会の出場者でマジュニアやサイボーグ桃白白は正体が分かっていたのだがシェンは正体不明で一見すると弱そうなのが逆に底知れない怖さに繋がっていた。正直言うと正体が判明するまではピッコロより厄介そうな感じがあった。
神様がヤムチャに忠告した「見かけで判断して中身や微妙な動きを捉える事を怠ると真の武道家にはなれない」と言う言葉はピッコロ大魔王を倒した悟空がミスター・ポポに注意された時の言葉を思い出す。(あの時の悟空もミスター・ポポの攻撃が自分に当たったのを「偶然」と思って侮っていた)
神様はあえてドジなおじさんを演じて相手の油断を誘っていたが恥をかかされた形のヤムチャは「たしかにあんたのいうとおりだ。目がさめたぜ」と言いながら「だが、やりかたが気にいらねえな。はっきりいってイヤなヤローってとこだ」と告げている。神様も自分のやり方があまり褒められたものではない事を自覚していたのか、「ほんのすこしだけだが稽古をつけてあげましょう」と答える。後にピッコロと戦う事を考えるとここでヤムチャ相手に実力を見せる事は得策ではないのだが、悟空にすらしなかった直接の稽古をヤムチャにしたと言うのは神様なりの謝罪だったのかな?
ブルマ達の隣にいる亀仙人だが試合が始まるとシェンの実力が判明するまで表情が描かれていない。ひょっとしたら、シェンが本性を現す前に彼の実力を見抜いていたのかもしれない。
「シェン」に続く。