「哪吒編・まとめ」
『封神演義』第12回
大切な存在を使って相手の心を折りにいくと言う今回の太公望の戦いは実は王天君が黄飛虎を使って聞仲の心を折ったのと同じだったりする。ただし、太公望は哪吒を救う為に、王天君は聞仲を殺す為にと最終目的は真逆であったが。
基本的に殷氏は哪吒を肯定し続けてきた。そんな殷氏が初めて「ダメ」と言ったのは哪吒が霊獣王を返り討ちにしようとした時で、この時の哪吒は相手を殺せないのなら自分が死ねば良いと考えた。そして今再び殷氏は「もうおよしなさい」と告げる。ここで殷氏は「あなたを失ってもこの人を失っても私は悲しいわ」と続け、哪吒は李靖を殺す事も自身が死ぬ事もやめる。
殷氏が「大切な人を失ったら悲しい」と言ったのは実際に目の前で哪吒の死を見てしまったからであろう。あれだけ溺愛していた息子が自分の目の前で頭を吹っ飛ばして自殺するなんてショックと言う言葉では表しきれない状況だったと思う。
哪吒にエディプス・コンプレックスを説明する時に太公望は「……と仙人界で教わった」と話している。自分の実体験ではなくて他人から教わったと言う言い回しを聞くに太公望はエディプス・コンプレックスを経験しなかったようだ。
太公望は幼くして両親を失っているし、仙人界で過ごすようになってからも両親代わりの存在はいなかったのかもしれない。(元始天尊が父親代わりだと考える事は出来るが、母親代わりとなる存在が出てこない)
太乙真人登場。これまで崑崙山の関係者は元始天尊の他には白鶴童子、太公望、李靖と道士のみが登場していて、仙人の度厄真人は名前のみの登場となっていたが、ここに来て崑崙十二仙の一人である太乙真人が登場した。霊珠を使って哪吒を造り出し、さらに圧倒的な戦闘力を誇る哪吒を一瞬で捕獲すると格の違いを見せつけている。
太乙真人は今回の哪吒編では色々とぶっ飛んだ事をやっていて、正直言うと、つかみどころがないキャラだったのだが、それをカメラ目線と高所恐怖症で親しみのあるキャラに着地させた。妲己とかに顕著なのだが、やっている事にかなり問題があっても、それを親しみのあるキャラにする事で緩和させるのがこの作品は上手い。
「父親としての面子を立たせる」と言って仙人界で再び修行する決意を見せた李靖は格好良いのだが、残念ながらこの後に目立った活躍は無かった。趙公明との戦いに参加しなかったと思ったら女媧との決戦には同行したり、でも結局は人間界に残って余生を送ったりと、仙人と人間の間をフラフラと行き来する事になる。でも、ここでフラフラと行き来していたから最後に人間界に残る事が出来たのかも。ちゃんと修行していたら人間界を去って殷氏と離れなければいけなくなっていただろう。
今回の話は父親との確執から物語が始まったのだが、哪吒は初登場の時点で既に父親を超えていたので、父親絡みの話はこの後はあまり無くて、李靖が絡んできたのに対応するくらいとなっている。なのでこの手のキャラによくある「父親を超える」とか「家族からの自立」等はあまり描かれず、これまでワガママ少年だった哪吒が色々な人と出会って周りの事を考えるようになると言う物語が展開される事となった。
「玉泉山金霞洞玉鼎真人門下・楊戩登場!!」に続く。