「死闘二 -普賢真人-」
『封神演義』第136回
今から30年前に太公望は普賢真人と一緒に人間界に遊びに行った事がある。その時の太公望は「考え事をする為に釣りをした」との事。仙人界でも考え事は出来ると思うが、太公望はあえて人間界で考え事をしていた。と言う事はこの時の太公望は人間界について考えていたと思われる。
太公望は妲己によって一族を滅ぼされ、その敵討ちと人間界を変える為に仙人界へと渡った。しかし、妲己は太公望が仙人界に渡ってからしばらくして聞仲と四聖によって撃退されている。なので、太公望の目的の一つはこの時点では消滅したと言って良い。残る目的は「人間界を変える」である。おそらく太公望は「このまま仙人界に残って道を極める」か「人間界に降りて世の中を変える」かどちらの道を選ぶのかを考えていたのではないだろうか。そんな太公望に対して普賢真人は「望ちゃんはいつか戦いに身を投じる気がする。心の奥にギラギラ光る刃があるもの」と指摘している。普賢真人のこの言葉で太公望は自分がいつか人間界を変える為に戦いに身を置く事を確信したのだと思われる。
その後の話だが、今から20年前にも太公望は白鶴童子と一緒に人間界に遊びに行っている。この時の太公望は殷の国中を飛び回っていたとの事。おそらく、来たるべき時に備えて人間界を見ていたのだろう。そして太公望は仙人界での修行をサボり罰として人間界に下ろされる事を待ち、話は第1回へと至る。
今回の話で聞仲の真意が明らかになる。
元々、聞仲は殷の将軍だったし、金鰲で修行を受けたのも、その後に仙人界との関わりを切って人間界に身を置いたのも、今回の仙界大戦の理由も全て殷の為であった。なので「殷の滅亡」が前提である崑崙の封神計画に賛同する理由は一つも無い。
だったら、仙人界と聞仲が力を合わせて妲己を倒して殷を再生させれば万事解決ではないかと思うが、ここで申公豹によって殷の王位継承者が絶えてしまったと言う問題が立ちはだかってしまう。あまり殷周易姓革命に関わっていない申公豹だが実はかなり重い一撃を振り下ろしていた。
聞仲は殷の為にならない仙人界を滅ぼす事を決める。敵である崑崙は殷の滅亡を前提に動いているし、一応は味方の金鰲も殷を助けようと言う気持ちは殆ど無い。例外は張奎夫婦と四聖くらいであるが彼らは全員が人間界にいる。仙人界滅亡を聞仲が躊躇する理由は一つも無かった。
因みにこの「崑崙と金鰲を互いに争わせる」と言うのはかつて妲己が目論んでいた事。気付かぬうちに聞仲は妲己の計画の手助けをしてしまっていた事になる。
聞仲は通天教主の事を今でも「通天教主様」と呼んでいる。「育ててもらった恩はある」とも言っているので、通天教主が正気を保っていたら聞仲はまた違った選択をした可能性がある。実際、この時代において通天教主は聞仲にとって唯一の「師」であったわけだし。
「死闘三 -普賢真人Ⅱ-」に続く。