「殷の太師」
『封神演義』第44回
「おまえも所詮、妲己と同じだ! 仙道の力でもって人間界を支配しようとしている!!」。
聞仲の台詞だがこれが後に壮大なブーメランとなって自分に返ってくる事になる。
聞仲は人間界では仙道の力を使わないようにしている。(その結果、辺境の反乱を鎮めるのに時間がかかり、その間に妲己の勝手を許す事になってしまった) しかし、殷の王が何人も何人も死んでいっても聞仲は生きている。この「長寿」も「仙道の力」なので、聞仲は自身でも気付かぬうちに「長寿」と言う「仙道の力」で人間界を支配していたと言える。
太公望と聞仲が遂に対峙。
「妲己を排除して殷を再生させれば良い」と言う聞仲に対し、太公望は「既に殷は民の信望を失っているので新たな国を作る必要がある」と反論する。
実は太公望も最初は聞仲と同じ考えであったが「未来視達のディアレクティーク」で元始天尊に説明されて考えを変えている。その時点では殷を再生させられる見込みが無かったので元始天尊の話にも説得力があったのだが、後の聞仲が朝歌に帰ってきた時の話を見ると、聞仲がいれば殷は再生出来るのかもしれないと思えるようになる。もしかしたらだが、太公望が元始天尊から殷周易姓革命の話を聞く前に聞仲と出会っていたら、太公望は殷の再生を期待して、多くの犠牲者が出る殷周易姓革命ではなく妲己一人を倒す方を選んでいた可能性がある。おそらくその時、太公望と聞仲は共に力を合わせていたと思われる。
上にも書いたが、この時点での封神計画は「殷は既に民の信望を失っているので、妲己を倒すだけでなく、殷に代わる新たな国を用意しなければならない」となっていた。元始天尊がこの説明をした時は確かに殷に再生の見込みが無かったのだが、後に聞仲が登場すると、聞仲がいれば殷は再生出来るのではと思えるようになった。この時点では真の敵は妲己なので、太公望と聞仲が手を組んで妲己を倒して殷を再生させると言うのが最も犠牲が少ない解決方法であった。なので元始天尊が掲げる殷周易姓革命を行わなければいけない説得力と言うのがこの頃は欠けていた。作者の藤崎竜さんもそれに気付いていたからか、太子二人や賈氏と黄氏の話で妲己がいなくても殷はいずれ滅ぶとし、仙界大戦では聞仲による支配そのものに疑問符を付ける等している。ここは戦う相手が単なる悪ではなかった事による物語作りの苦労が垣間見える。
聞仲の襲来に元始天尊は「今からでは助っ人も間に合わぬ」と狼狽える。
飛来椅でワープを使ったらどうかと思ったが、崑崙十二仙総掛かりでも勝てない聞仲相手にどんな助っ人を用意すれば良いのかと言う話になる。
聞仲と戦えそうな人材と言えば燃燈道人くらいだけど、さすがに今から呼んで現地に送ると言うのは間に合わないだろうな……。
申公豹の説明によると禁鞭を破るのは難しいらしく、実際、楊戩達は為す術無く全滅してしまった。ここで太公望は打神鞭で起こした風の壁で仲間全員を丸ごと囲って守るが実はこれが禁鞭を破る唯一の方法だったりする。(この発展系が後に登場するBクイック攻撃) 偶然なのか、それとも一度二度の攻撃で太公望は既に禁鞭の特性を見抜いたのか……。
「二つの道」に続く。