「牧野の戦い① -太極図vs傾世元禳!!!-」
『封神演義』第161回
本格登場した頃の武王は人望はあるが上に立つ者としては色々と経験不足なのは否めなかった。そこで太公望は借金返済の為の金策を用意したり、姫昌が亡くなった時に諭したり、決起集会時にスピーチの内容を考えたりした。
しかし、かつて聞仲が王達を幼少の頃から教育する事で自分の思想を王達に刷り込み結果的に人間界を裏から支配するようになったのと同じく、いずれ人間界の王となる武王に知恵を与え続ける事は結果として太公望が人間界を裏から支配する事になる。特に政治的に大きな意味を持つ場でのスピーチ内容を武王ではなく太公望が考えると言うのはその危険性が強く出ていたと言える。
だが武王は太公望の考えた文章を読まず自分の考えを述べた。これ以降、太公望は武王に細かく指示を出す事は少なくなる。そして武王も仙界大戦前後の時は太公望は周にいなくてはいけない人物だと言っていたが、澠池城の攻防前になると、太公望不在でも他の諸侯に指示を出せるまでに成長していた。
他にも武王は殷郊との戦いの時には楊戩に質問して返ってきた答えを元に色々と考えるようになり、澠池城の攻防の頃になると自分から勉強して楊戩に意見を述べられるほどの知識を身に付けていた。
そしてこの牧野の戦いでは太公望が用意したシミュレーションがあったとは言え、大軍を率いて殷の軍勢に勝利している。さらにこの後の朝歌入城になると、太公望は「天化が見せ場を用意した」と状況報告をするだけとなり、民に不安を与えないで朝歌に入城して最後に紂王と決着を付けて殷の滅亡を宣言するのは全て武王が自分で考えて実行していった。
基本的に週刊少年ジャンプのバトル漫画は主人公を中心に描いている。途中で主人公以外のメンバーが活躍するようになってもそれはあくまで戦闘メンバーに限られている。たとえば『ドラゴンボール』の人造人間編と魔人ブウ編では主人公である孫悟空と孫悟飯が出ない時期があるが、その時期に活躍するメンバーはピッコロ、ベジータ、トランクス、孫悟天と主人公に代わって戦えるメンバーであった。『封神演義』も同じで太公望が目立たない時期に活躍するのは楊戩を始めとした戦闘能力のあるキャラである。この頃はまだ武王や周公旦と言った非戦闘キャラをメインにするのは難しかったのか、重要キャラではあるが武王メインのエピソードは少なく、こう言った細かいやりとりで成長を示している。
太公望「5分で全部を頭に入れよ!」、
武王「ご…5分!?」。
いやいやいや! いくら何でも5分は時間が足りなすぎるだろ!!
太公望としては歴史の変わり目である牧野の戦いは武王の指揮で戦わせたかったのだろうが、いかんせん、武王が指揮を執るには経験が少なすぎた。なにせ劇中で描かれた兵を使った戦は殷郊との戦いとこの牧野の戦いだけだったのだ。
この場面は楊戩の「武王にはまだ早すぎる」が正論なのだが、いくら「まだ早すぎる」と言っても、状況的に兵を使った戦はこれが最後なので、たとえ早すぎてもこの戦で武王が指揮を執らなければ武王が指揮を執って戦う機会は無くなってしまう。ここは兵を使った戦を避けた太公望の策が裏目に出たと言える。
太公望がスーパー宝貝・太極図を出した事に驚く妲己。その後の「大きくなったわねん、太公望ちゃん」の言葉がちょっと「子の成長を喜ぶ母親」に見えた。
邑姜が来なければ武王だけでなく楊戩も危ういところであった。スーパー宝貝・太極図が仙道に与える影響の大きさを感じる場面。
「牧野の戦い② -血縁-」に続く。