「グレート・マザー③ -妲己ちゃんの秘密-」
『封神演義』第197回
妲己の真の目的が「この星の真の支配者となる事」と明かされる。それを目指して妲己は力を求めていったが、女媧から始祖の事を知らされてその信念は崩れた。と妲己本人は言っているが、妲己の目的は最初から何も変わっていない。
妲己は仙人界と人間界の完全支配を夢見ていて、人間界でのゴージャスな生活はその「世界を支配した後の生活」を一時的にだが実現したものなのだろう。しかし、それでも妲己は全てを支配する事は出来ていなかった。
誘惑の術で生物の意思をコントロールしても自然の流れはコントロールできない。たとえば、王宮でゴージャス生活を送ってもある日突然大地震が起きて王宮全てを失う可能性がある。この時、妲己の人生は自然(地球)に支配されていると言える。
この場合はどうすれば良いのか? 多くは自然(地球)のデータを集めて地震等に備えた装置や施設を作る事になる。しかし、どんなに努力しても人間が自然(地球)を完全に抑え込む事は難しい。
だが、かつての始祖のように地球と融合して自らが地球そのものとなったら? 地震等の自然現象すら自身の一部となる。それはこの地球における全てを支配し手中に収めたと言える。妲己の言う「土にも水にも風にもヒトにも全てに居る事が出来たなら…」はこの地球に存在するもの全てを自分へと取り込んだ、いわば「真の支配」なのだ。
妲己の目的は「支配する」と言う点において最初から最後までブレが無い。だが妲己自身が「信念が崩れた」と言うように変わった点もある。
妲己が誘惑の術で殷を支配していた時の生活を見れば分かるが、この時の妲己は何も生み出す事が無かった。しかし、地球と融合した始祖達の話を聞いた妲己は「大地を潤し生命に恵みを与えている」と「何かを生み出す」事について考えるようになった。
地球と融合して太母となった妲己。これから先、星となった彼女のもとで様々な生命が生まれてくる事となる。
太母となった妲己だが、地球は単なる優しい母ではない。地震、津波、噴火、暴風豪雨豪雪と何の理由も無しに地球に生きる者達の命を奪っていく。まるで、妲己の気まぐれのように……。
この回の太公望は複雑な表情を見せながら妲己の話を聞いている。
思えば太公望(呂望)の話は自分の一族を滅ぼした妲己への怒りから始まっている。その後、修行を経て仙人となって妲己と戦う事になるが、結局、妲己には一度も勝てなかった。さらに言うなら、太公望は妲己の体に一度も触れた事が無い。(趙公明戦で妲己の幻の手を握った事があるだけ)
幼少の頃から妲己の事を考えて生きてきたが、結局は妲己に勝つ事も妲己に触れる事も出来ないまま、当の妲己は「ずっと見守ってあげる」「忘れないわ」と言い残して地球と融合して目の前から消えてしまった。太公望は「まだ消えてはなら…」と追いすがるが無情にも妲己は消えてしまい、太公望と妲己の話はここで強制的に終了してしまう。「仙道のいない人間界を作る」と言う目的は達成した太公望であったが、もう一つの目的であった「妲己との決着」は付ける事が出来ないまま終わってしまった。その不完全燃焼の状態で太公望はこの後何千年と生きていく事となる。地球と融合した妲己の上で……。
太公望は妲己の事をどう思っていたのかだが、今回の話を見るに「答えを出す前に妲己が目の前から消えてしまった」のかなと思う。
この先、太公望が何かしらの答えを見付けたとしても、地球と融合した妲己は太公望の前に現れる事は無い。でも、この地球に居る限りずっと太公望は妲己の存在を感じ続ける事になる。そんな状態で太公望はこの先どう生きていくのだろうか……?
ある意味、妲己は太公望の心を支配してしまったとも言える。
「グレート・マザー④ -静動-」に続く。